ワーキングホリデー

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食中毒との戦い ~だって、食べたいんだもん!~

私は胃腸が弱い。そのせいか、人に比べて食中毒にかかる率が、高い。
食い意地がはっていることが災いして、なんでも食べてしまう。結果的に食中毒になってしまって苦しむことになる。

不思議なもので、食中毒になると何が原因かすぐに思い当たる。ピンとくる。あ、これはさっき食べた○○が悪かったな、という具合に。
インドでは、朝食に出されたプーリーという揚げものが原因だった。
タイでは、屋台のパイナップルだった。
憎らしいことに、そういう時に食べた物ほど美味しかったりする。

特にタイで食べたパイナップルは忘れられない。
焦げるような夏の日、歩き疲れた体を涼やかな木陰で休めようとまどろんだ。
木漏れ日に目を覚ますと、ちょうど目の前をのんびり通り過ぎるパイナップルの屋台。
そこで喉の渇きを癒そうと、果汁したたる自然の恵みを求めるのは人間として、いや生き物としての当然の選択だったのだ。

ほぼ何も考えずに私は一切れのパイナップルを買った。
青空の下でかぶりついた、黄金色の果実の美味しさよ!ああ私はこの瞬間のためにタイ王国を訪れたのだ!

……一転、地獄となったのだけど。
翌日私はホテルのベッドで嘔吐と下痢と、全身の痛みで悶絶することになった。
病院で、果物を切った包丁に菌がついていることがあると教えられた。地元の人は免疫ができているが、日本人のアナタにはダメだったんだね。若い青年医師が点滴をしてくれた。


食中毒によって引き起こされる症状は様々だと思うけど、私の場合は全身の痛みが特にひどい。
血液によって全身に運ばれた毒素に、全身の細胞が苦しめられていることがよくわかる。
悪寒と発熱、全身を絞られるような痛みに起き上がることもできない。


記念すべき食中毒初体験は、インドだった。
発症したのは、ニューデリーからアグラに移動する車の中。
「タージ・マハルを見に行こう!」という素敵な計画は出発してわずか30分で、地獄のドライブになった。

同じ朝食をとった友人はケロリとしているのに、なぜか私は瀕死状態。
私と彼女の一体何が違うというのか。
ちなみに朝食はインド式で、スパイスのきいた野菜炒めやサラダ、それにプーリーという薄い揚げパンのようなものがついていた。
私の野生の勘では、原因はそのプーリーだった。

視界がかすむほどに全身が痛く、胃袋ごと口から出てきそうなほど強烈な嘔吐感。
すでに車は都市部を離れて田舎道を走っている。田舎道といっても、もはや山間部。
「吐き続けるしかないね」と、インド人の友人が冷静に宣告する。
病院はどこ?とすがりつく私に「病院に行くにしても、とにかくこのままアグラに行くしかない」とドライバー。
私の悲鳴は風の中に消えていく。ここはインド。輪廻転生という思想が10億人を支える国。ナマステ。

季節は春で、車窓には、まぶしいほど真っ黄色の菜の花畑が広がっていた。
牧歌的な景色をガタゴト走る車。
その揺れにあわせて、壊れた扇風機みたいなうなり声を出す私。
「手も足も出ません」という表情で私を見る友人たち。
私の叫びで車は何度も停車し、同僚がボトルの水にライムを絞って私に飲ませてくれた。
飲んでは吐き、吐いては飲む。とにかく毒を出すしか方法がない。
好奇心の強いインド人達が私を見逃すはずもなく、車から降りるたびに私は人だかりに囲まれた。
ゾンビのように車から這い出て、水をぐびぐびと飲んで、下を向いて準備する。
友人のインド人が「ダイジョブ?」と近づいた瞬間に、私の胃液は盛大にインドの大地へ還っていった。
一斉にズザザと後ずさる、野次馬と同僚。
ぼんやりと車を振り返ると、開け放した車の中から友人たちの姿がかすんで見えた。
きっと彼らの中では、菜の花畑を背景にした惨めな私の姿が思い出に残っているだろう。
結局アグラに着くまで5回吐いた。

食中毒になって毎回感じるのは、猛烈な孤独感だ。
海外だから特にそうなのか、弱った体がそうさせるのか、寂しくて寂しくて仕方がない。
体の苦しみとその孤独感で、心が折れそうになる。

『衛生的な国なら食中毒にならないよ』と思う人もいるかもしれない。
だけどそれは関係ない。どこの国でも食中毒はある。自慢じゃないけど、私なんか日本でも食中毒になったことがある(本当に自慢にならない)。

用心しすぎてもつまらないが、不用心すぎても困りものだ。
残念なことに、健康と安全を守る確実な法則はない。
自分で自分を守るしかないというのが、冷たく聞こえるが本当のところだろう。
とにかく用心が第一の心構えしかない。
衛生面が疑われる食品は、口にしないこと。
暗い道は歩かないこと。バッグは車道側に持たないこと。
知らない人についていかないこと!

(だけど、あのパイナップルは本当に美味しかった……)

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